あちらの美術館で二つ、こちらの美術館で一つというようにジャコメッティの彫刻作品を観ることがあって、その都度、心がザワザワするような印象があった。あの感覚はなにに由来するのだろうと、喉に刺さった小骨のように気になってしょうがなかったのだが、ずいぶん長い時間が過ぎてしまった。 そして突然、なぜか「そうだ。ジャコメッティだ」と思い立ったのである。理由はない、ただの気まぐれである。 仙台市立図書館に「ジャコメッティ展」という図録 [1] があったのでさっそく借り出してきた。しかし、図録を眺めたとしても、あのザワザワとした感覚の由来を明らかにできそうにない。「存在の孤独」だとか「苛立つ実存」などという言葉が浮かぶが、それから先にどんな言葉もない。何かが見えてきそうな感じがまったくしないのだ。 図録を見たぐらいでど...